HOBBY THE TOMY

グロック

Glock1982年にオーストリア軍にP80として採用されたグロック17は、1986年にU.S.マーケットに参入、公的機関から絶大の支持を獲得した。これが民間市場にも拡大し、爆発的に普及が始まっている。フレームを含むパーツの多くにポリマー素材を多用することで軽量化を図ると共に、Safe Actionと呼ばれる独自のプレコッキング・ストライカーシステムは、従来のトラディショナルダブルアクションとは異なるスムーズなトリガープルと安全性確保を実現している。グロックが市場に受け入れられたことを受けて、他の銃器メーカーもポリマーフレームのハンドガンを相次いで開発したが、グロックのトリガーシステムが持つ優位性は崩れることはなかった。これによりグロックの一人勝ち状態が続いた。しかし、グロックのパテントが失効すると、同等の機能を持つ製品が続々と登場、現在ではグロックだけが圧倒的に優れているという状態ではなくなりつつある。
グロックはその登場以来34年もの間、基本的なメカニズムを変更していない。また同社の製品はすべて同じメカニズムを持っている。しかし、改良のためにパーツの形状変更といったマイナーチェンジは繰り返しおこなわれてきた。近年になって大きなアップグレードがおこなわれた事実を明確にするため、Generation(略してGen)+番号による分類方法がとられるようになった。1982年登場の初期モデルをGen1とし、1988年にグリップ表面のテクスチャーを変えて滑りにくいグリップとした改良をGen2とした。1998年頃、ダストカバー部にアクセサリーレールを加え(サブコンパクトは除く)、再度グリップ形状を変更し、フロントストラップ部にフィンガーチャンネルを設けたものをGen3と分類している。Gen4は2010年に発表され、パックストラップを交換可能とするMBS(Multi Backstrap System)を導入、トリガーリーチを2mm短縮させ、グリップのテクスチャーを変更、大型のマガジンキャッチはリバーシブルとする大幅改良をした。最大の変更点は新型のリコイルスプリングを組み込んだRSA(Recoil Spring Assembly)の採用だ。しかし、これが大きな問題わ引き起こした。
新型RSAはデュアルリコイルスプリングとなっている。単一のスプリングをリコイルスプリングに使用した場合、圧縮されたリコイルスプリングは急激に戻ろうとする。これにより、ジャムわ引き起こす可能性がある。特にショートバレルではその傾向が強い。スプリングをデュアルにすることで、スプリングの戻ろうとする動きが安定化する。これにより、作動の安定性をさらに高めることとリコイルわ軽減させ、さらにはフレームのダストカバー部の強度をアップさせて、アクセサリー装着時のジャムを低減させることが、新型RSA採用の理由だった。しかし従来のままでもグロックの作動信頼性は高く、リコイルの強さも特に問題になってはいなかった。確かに従来のフレームは金属インサートがなく、やや柔らかいことで重いアクセサリーを装着すると作動不良わ引き起こす可能性があった。だからグロックは新型RSAの導入に併せてフレームの強度を高めた。しかし、このRSAのスプリング圧が強すぎ、Gen4はジャムが多発するという問題が発生してしまった。フレームを含む多くのパーツの互換性がGen4以降とGen3までとで異なるということも、グロックユーザーから反発を受ける事に繋がった。結局、グロックはGen4の不具合解消に約2年もの時間を費やしていた。
2013年イギリス軍は、制式軍用ピストルを従来のFNハイパワーからグロック17 Gen4に切り替えることを発表した。イギリス軍はこれにより25,000挺以上のグロックを購入することとなった。これはGen4を取り巻いていた不具合が完全に解消されたことを意味する。
グロックは現在まで世界31ヵ国の軍で採用(部分採用を含む)されている。また米国のポリスデパートメントで使用されているハンドガンの約65%はグロックだといわれている。この事から、現時点において最も普及しているハンドガンはグロックだということができるだろう。
2015年初め、MARSOC(米海兵隊特殊作戦部隊)でグロック19の使用が公式に認定されたと報じられた。同年末にはU.S.Naval Special Warfare Command(NSWC : 米海軍特殊作戦コマンド)がやはりグロック19を採用したことが報じられている。
上記の米国特殊部隊が選択したモデルが、フルサイズではなくコンパクトのカテゴリーに属するグロック19であることは注目すべき点であろう。Navy SEALsはSIG P226やコルトM45A1等を使用していることが知られている。これらとグロック19は性格が異なる事から、コンパクトピストルを必要とするオペレーションにおいて使用することを想定したものと思われる。
以前から多くの国の特殊部隊でグロックが使われていることは広く知られていた。フルサイズだけではなく、コンパクトの19も同様だ。デルタフォースや第75レンジャー連隊もグロック19を装備している。
グロック19は1988年に登場した。基本モデルであるグロック17から12mmバレルを短縮、マガジン2発分だけフレームを短く切り詰めたモデルだ。コンパクトサイズではあるが、操作性は全く犠牲にされておらず、フルサイズとほぼ同等の機能を維持している。
グロックのSafe Actionは、スライド内のストライカー(ファイアリングピン)が76%コックされた状態を保つ事にある。この状態でもストライカーは自動ロックされ、これとは別にストライカーわホールドするトリガーバーウイングがトリガーバー・セーフティスロットに入ることでストライカーのホールドを解除できず、さらにトリガーセーフティがトリガーの動きを阻止している。これにより、トリガーを引かない限り、100%の安全を確保している。トリガーを9.5mm引けば、トリガーセーフティとファイアリングピンロックが解除され、トリガーバーはストライカーを残る24%分後方に動かす。コネクターによってトリガーバーは下げられ、ストライカーをリリースする。ストライカーは11.8mm前進し、プライマーを叩いて撃発がが起こる。続けて撃つ場合は、トリガーをわずか3.5mm戻すだけでトリガーバーとストライカーのコネクトが完了するショートリセットトリガーを装備している。
グロックはこのメカニズムをわずか33点のパーツで実現させた。1980年代当時、グロックはもっともシンプルで部品点数の少ないショートリコイルピストルであった。現在では同等のシンプルさを持つモデル増えたが、それでもシンプルで合理的なメカニズムに関してはグロックが一番だ。このシンプルさに加えて、マイナス60°C~200°Cの環境でも使用可能だという環境適合性もすごい。トリガープルは約2.27kgだが、コネクターを交換することで、さらに軽くすることも、逆に重くすることも可能だ。
グロックが誕生した1980年代は、安全を確保しながらマニュアルセーフティの操作なしで素早く発射できることが求められた時代だ。他のオートマチックピストルは、ダブルアクションとオートマチックファイアリングピンブロックを組み込むことでこれを実現させたが、グロックは独自のセイフアクションで対応、その先進性をもって世界中に普及するに至った。その状態は現在も変わってはいない。他の多くのメーカーがグロックに近い機能わ持ったモデルわ製品化しているが、まだグロックを引きずり下ろすことに成功していない。

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