HOBBY THE TOMY

H&K USP, P2000, P30, HK45

USP1980年代までにバトルライフル、アサルトライフル、そしてサブマシンガンの分野で華々しい成功を収めてきたヘッケラー&コッホだったが、ハンドガンマーケットでの成功作は無かった。P9SやP7は意欲作であったもののそれらは構造、機能共に先鋭的過ぎる傾向があったことが、公的機関での採用が限定的となった原因だと判断したのだろう。90年代に入ると、マーケットニーズを分析し、それに適合するモデルの開発をおこなう方針に切り替えたように思える。ハンドガンの最大マーケットはアメリカだ。そのアメリカで売れる製品の開発に動き出した。時を同じくして、1989年、U.S.SOCOMはOHWS(Offensive Handgun Weapon System)トライアルとして.45口径戦闘ピストルの選定をおこなうこととなった。HKの新型ハンドガンUSP(Universal Self-loading Pistol)は、SOCOMピストルと平行して開発が進められた。
USPの採用したロッキングメカニズムは、ごく普通のティルトバレル・ショートリコイルである。外装式ハンマーで、セーフティ兼用のコントロールレバーにより、コック&ロックも可能だ。レバーを上げればセーフティON、レバーを水平にすればセーフティOFF、そしてレバーを押し下げればハンマーデコッキングとなる。この操作性は、すでにトーラスPT-92で実績があるデザインだ。ポリマーフレーム、ポリマーマガジンは既にグロックが普及していることで、市場に認知されている。強度を上げるため、非常に大きなスライドを持っている以外、USPに際立った特徴はない。従来の先鋭的なHKハンドガンを見てきた者からすれば驚くほど平凡だ。しかし、それがビジネス的には正解だった。1993年に発表されたUSPは、幅広いユーザーから受け入れられた。そのコントロールレバー操作法を変更したドイツ仕様は、P8としてドイツ連邦軍の制式軍用ピストルとして1995年に採用され、USPベースの.45口径特殊部隊仕様はU.S.SOCOMからもMk23として採用を勝ち取った。USPはHKにとって、もっとも成功したハンドガンであり、現在も製造が継続されている。
USPは幅広いユーザーに受け入れられやすいようバリエーションが豊富だ。 9×19mm、.40S&W、.45ACPと3種の弾薬が選べ、コントロールレバーの機能とトリガーの機能を選択する形で出来上がったヴァリアント(仕様違い)は最終的に10種にも及ぶ。さらに別オプションとしてLEMトリガーを組み込むことも可能だ。これはCDAトリガーと呼ばれる場合もあるもので、プレコックハンマーを装備した軽いプルのDAOだ。連射する場合のトリガーのリセットは非常に短く設定されている。グロックのトリガーを意識して開発されたことは言うまでもないだろう。このLEMを組み込むとコントロールレバーは無くなる。またハンマーはスパーのないボブド・ハンマーになる。
さらにバリエーションとしてスレッデッド(ねじ山付き)バレルとハイサイトを組み込んだTacticalもある。この呼称はアメリカ仕様で、ドイツではUSP Tacticalではなく、USP SDと呼ばれる。以前は他にもMatchやExpertといったターゲット仕様もあったが、現在のラインナップからは消えている。さらに全長、全高を切り詰め、スライドとグリップのサイズを小ぶりにしたCompactもある。このドイツ警察仕様はP10として納入されていた。一時期はCompact Tacticalというタクティカル仕様もあった。
登場から33年、USPは目立った仕様変更がないまま、現在も生産供給が続いている。近年のポリマーフレームハンドガンとしてこれは珍しい例だといえる゛ろう。USPがこれほど長期にわたって仕様変更がないのは、市場の要求に合わせた新しいモデルをUSP以降次々とHKが製品化しているからだ。
P2000は2001年に登場したUSPコンパクトの発展型だ。ドイツ警察に女性警察官が増えたことに対処したもので、グリップのバックストラップが交換式となっている。またレールもHK独自規格から汎用性の高いオープンレール規格に変更された。P2000には.45ACP仕様はなく、9×9mmと.40S&W仕様のみ。以前はV0からV5まで6種のヴァリアントがあったが、現在はV2(LEM仕様)とV3(DA/SAデコッカー仕様)のみに落ち着いた。P2000にはさらにコンパクト化したP2000SKがある。SKとはドイツ語のSub Kompaktの略だ。しかし現在P2000を供給しているのはHK USAであり、ドイツではP30の登場によってラインナップから消えた。
そのP30は2006年に発表された。2005年の試作モデル発表時点ではP3000と呼ばれていたが、数字の桁数が増えることを嫌ったHKが翌年の制式発表時点でP30と改めている。P30がある意味でUSpの後継機に位置付けられたアップデートモデルというべきだろう。.45ACP対応にはなっていないが、それ以外の部分ではUSPの特長を概ね網羅していると同時に時代に合った改良が施されている。MIL-STD-1913(ピカティニー)レール仕様で、バックストラップ交換と共にラテラル(側面)パネルも交換可能となり、シューターの手にグリップを合わせやすくなっている。USPでは無駄に大きかったように思えるスライドもシェイプアップされた。スライドストップとマガジンリリースは左右両側に装備されている。基本型のP30にはLEM仕様とDA/SA仕様が用意され、さらにP30Sと呼ばれるアンビデクストラウスセーフティ仕様がある。P30Sは当然DA/SA仕様だ。デコッキングボタンはUSPとは異なり、セーフティレバーとは別にフレーム後方に位置している。これはP2000で導入されたスタイルだ。
P30にはロングバレル、ロングスライド仕様としてP30Lとサブコンパクト仕様のP30Kがある。ただしP30Kは9×9mm仕様のみ。
P30で消えた.45ACP仕様については別モデルとしてHK45が存在する。これは2005年にアメリカ軍が.45ACPモデルを選定するJCP(Joint Combat Pistol)プログラムを開始するのに合わせてHKが開発したモデルだ。HKはこの時、元デルタ・フォース隊員のラリー・ヴィッカーズと特殊部隊出身のケン・ハッカソーンのサポートを受けている。両氏は2001年にHKに対し、HK版の1911開発を要請した経緯があった。しかしその時点でHKは1911の製品化に乗り気ではなく、これは実現しなかった。その後にUSP45を改良することとなり、両氏は数々の要望をHKに提示、その通りにならなかった部分もあるが、完成したHK45はタフで理想的なミリタリーコンバットモデルとなった。結局、JCPプログラムは2006年に結論を出さないまま中断してしまい、HK45は市販されることとなった。
HK45はUSP45からマガジン装弾数を2発減らして10発としている。これは装弾数を減らしてもグリップフィーリングを高めることを目指したものだ。これをHKではエルゴノミックグリップと称している。またこのグリップとスライドの作り出すアングルは1911と同じに設定されている。
市販されたHK45はトラディショナルDA/SAでデコッキング機能を持つV1とLEMトリガーを持つV7の基本2バリエーションとなった。それぞれコンパクト仕様のHK45 Compactもある。さらにUSP Tacticalに相当するスレッテッドバレルを装備したHK45 TacticalとHK45 Compact Tacticalもある。なぜかHK45 Compact Tacticalにのみ、DA/SAでセーフティ機能無しのデコッカーのみというV3が用意されている。
.45ACPの需要の少ないヨーロッパ市場に対して現在HK45は供給されていない。

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